「あ、のそれ美味しそう・・・隙あり!」

「ちょっ・・・理沙!?」

楽しみに取っておいたから揚げが、あっという間に理沙の手からその口へと放り込まれてしまった。
残されたのはお弁当の空いたスペースを箸でつつきながら、理沙を睨む・・・私。

「・・・最後のから揚げだったのに」

「いいじゃないの。うん、美味しい!、料理の腕上げたね」

そんな事言われても食べられたから揚げは戻ってこないわよ。
悔し紛れに理沙の食べていたコンビニのサンドイッチに手を伸ばしたけれど、素早い動きに阻まれ私の手はサンドイッチに届く事はなかった。

「まだまだ甘いわね」

勝ち誇った顔でサンドイッチを口に入れようとした理沙を横目に、私は側にあったカフェオレを手に取り、何食わぬ顔で飲んだ。
勿論それはさっき理沙が買ったカフェオレ。

「ちょっ・・・!」

「まだまだ甘いよ、理沙」

「もぉ〜最後の楽しみに残しておいたのに・・・」

「私のから揚げと同じでしょ」

「じゃぁ今日の勝負は引き分けってトコね」

そんな風にじゃれあいながら短い休憩時間を理沙とすごしていると、不意にポケットの携帯電話が鳴り出した。
この着信音を設定してるのはただ1人。



どうしたんだろう?
就業時間中にはメールも電話もしてこないのに・・・?



ニヤニヤしながら私の腕をつつく理沙を無視して、届いたメールを開いて内容を読んだ瞬間・・・私は耳まで真っ赤になって慌てて携帯を閉じた。

「・・・どしたの?」

「ごっごっ、ごめん理沙!至急、そのっ・・・れ、連絡しなきゃいけないから・・・ちょっと行ってくる!」

「はいはい、ラブラブメールなのね。行ってらっしゃい」

奪い取ったカフェオレとついでにお弁当も理沙に押し付けてからその場を離れ、ビルの影でメール送信者に電話をする。










「やぁ、やっぱりかけてくると思ったよ」

「どういうつもりですか、緒方さんっっ!!」

メールの送信者は・・・私の恋人、緒方芳彦さんだった。

「どういうつもりも何も、そこにある通りだよ」

「そっ、そこって・・・」

「あれ?ちゃんとメール届かなかった?じゃぁ今ここで音読するから・・・」

「結構です!!」

そう言った私の声があまりに大きかったのか、目の前を通り過ぎようとしていた人が一瞬私の方を振り向いた。
恥ずかしくなって歩きながら別の場所へ移動し、その間も出来る限り小声で緒方さんと話をする。

「どうして、あんなメール送ったんですか?」

「いやぁ、最初は編集にメールを送るつもりだったんだけど、徹夜続きで意識が朦朧としてたのかな。つい慣れ親しんだちゃんへメールを送っちゃったんだよ」

そこまでは問題ではない。
寧ろ、どんなに疲れていても私の事を考えてくれていると思えば嬉しくもある。

「就業中まずいなぁと思ったけど、君の事だからきっと電話くれるだろうと思ってね」

「・・・しますよ、あんなメール貰ったら」

昼間のオフィス街じゃとても直視できない・・・と言うか、黙読するのすら難しい内容の赤裸々なメールを貰ったら普通確認の電話します。

「で、そこの台詞どう?それでいいと思う?」

「はぁ?」

「君、ちゃんとメール読んでないね」

「・・・読めませんよ」

「そりゃまたどうして?」

「あのシーンの部分だけ携帯に送るってどういうつもりですかっ!!」

今度は周囲の迷惑も顧みず、電話口の緒方さんが体を仰け反らせるくらいの大声を上げる。



送られてきたメールの中身は・・・今、緒方さんが短期で連載している小説のワンシーン。
しかも、見事に濡れ場のシーンだけを送られた物だから理沙に覗き込まれる前に慌てて携帯を持ってあの場を離れた。

こんなの見られたら何言われるか分からないわよ。

「君の率直な意見が聞きたかっただけなんだけどね」

「私の意見なんて求めないで下さい!」

「仕方ないよ。君、編集に気に入られてるから」

「は?」

「ほら、以前俺が2編作品を書いて、ちゃんがこっちがいいって編集に押してくれたろ?」

「・・・はぁ」

「あれ、女性読者から凄く評判が良くてね。続編が決まりそうなんだ」

「そうなんですか?!」

「そ、だから今回も編集がこの場面の感想を君に聞きたいって煩いんだ」

「で、でも・・・」

さっきのメールを読み直すとしても、昼休みももう少しで終わっちゃう。
それに意見を言うとしても・・・公道や人のいる所で話をするのははばかられる内容な気がする。
そんな風に私が悩んでいる空気が伝わったのか、緒方さんが電話口で笑いながら優しく諭すように言った。

「無理に今じゃなくていいよ。そうだな、今日は定時で終わるんだよね」

「・・・多分」

「絶対終わらせて。あぁ、何だったらオレが一条を脅してでも帰らせるけど・・・」

「終わらせます!」

「オッケー、じゃぁ問題ないな。定時に会社まで君を迎えに行くよ。それから家に来て、前後を読んで感想聞かせてくれる?」

「・・・時間、大丈夫なんですか?」

「君の意見を聞いてくれって言ったのは編集だからね。その辺はどうにかするさ。それに・・・」

急に緒方さんの声が小さくなったので、受話器を耳に押し当てて耳を澄ましていると・・・艶っぽい声が吐息と共に電話の向こうから聞こえた。

「話を読んでいる時の君の顔、見ていたいしね」

「!?」

「気づいて無いかも知れないけど、結構イイ顔してるよ」

「おっ緒方さんっ!」

「はははっ、じゃぁ仕事中に悪かったね。一条にもヨロシク」

そう言うとすぐに電話は切られ、時計の表示は昼休み終了5分前を示していた。

「もぉ、いっつも強引なんだから」





それでも仕事が終われば緒方さんに会える、そう思うと自然と頬が緩んでしまう。
例え、就業後に待ち受けているのが、一歩間違えたセクハラ行為だとしても・・・それでもやっぱりあの人の笑顔と声には、敵わない。





BACK



え〜・・・緒方さんが送ったメールは完全にエッチメールです(笑)
どんな?と言われても困りますが・・・そぉだなぁ、情緒溢れるあのシーンだけ抜粋した物!です。
ちなみに編集さんが意見を聞いてくれと言うのは本当ですが、どうしても聞いてくれ、とまでは言ってません。
ようするに また 緒方さん が 独断で 編集をダシにしているだけです(笑)
ゴメンね、緒方さん。
私がもう少し文章書くの上手かったら、もっと上手に就業後にお持ち帰り出来る方法考えて上げられるんだけど(苦笑)
この話の風見的ツボは、緒方さんからかかってくる電話です。
しかも最後の方の艶っぽい吐息もプラスされた電話です(笑)
ゲーム内でも緒方さんからの電話声が聞けますが、あれを聞いて体が斜めに傾きました。
いい声は電話を通してもカッコイイ・・・ちくしょぉっ!!やられたっ!と思いました。